研究誌・学会誌の紹介

 社会科教育の研究をするのに欠かせないのが、学会誌や民間研究会の機関誌、そして商業雑誌です。これらを上手に使い分けていけるようになるとと、何かと役立つことがあります。ここでは、その中でも主なものをいくつか取り上げて紹介したいと思います。

◎学会誌(教科教育学関係)
◆『社会科教育研究』(日本社会科教育学会)
 筑波大学に事務局がある日本社会科教育学会の学会誌で、年2回発行されています。全国規模の学会ですが、主に関東の教育系大学(学部)関係者が中心になって運営しています。この学会誌の特徴は、現在の社会科研究者や教師が考えなければならない今の問題への対応や、流行の研究アプローチに対する検討など、「今、ここで」の問題に敏感に対応しようとしている点にあると思います。文脈重視といいましょうか。
 最近では、こうした「今、ここで」の問題に対する現場の教師の授業実践の記録なども積極的に掲載するようになりました。

◆『社会科研究』(全国社会科教育学会)
 広島大学に事務局がある全国社会科教育学会の学会誌で、年2回発行されています。全国規模の学会を一応名乗っていますが、もともとは西日本社会科教育研究会という広島大学の勉強会が最初です。組織としては今なお幹部(常任理事や学会長)を広島大学OBが占めるなど、広島大学同窓会的組織としての要素が色濃く残っています。この学会誌の特徴は、時代や地域といった文脈を超えた社会科(または教育)の本質について検討する点にあるように思います。普遍性重視といいましょうか。
 この学会は、外国研究を得意としているところにも特徴があります。それもただ外国の研究動向をそのまま伝えるだけではなく、我が国での示唆を考察することに拘っている論文が多くみられます。より普遍的な社会科(または教育)の本質を考察しようとするには、外国での議論は無視できないからでしょう。
ただ最近では、文脈重視の動きも一部で見られます。実践系論文の掲載も多いですが、「すぐ明日の授業に使える」タイプのものはあまり掲載されていません。
なお、不定期に『社会科教育論叢』という学会誌も出されています。

◆『社会系教科教育学会誌』(社会系教科教育学会)、『中等社会科教育研究』(中等社会科教育学会)、『社会認識教育学研究』(鳴門社会科教育学会)、『学藝社会』(東京学芸大学社会科教育学会)など
 これらは、いずれも地方大学にある社会科教育学会が発行している学会誌です。社会系教科教育学会は兵庫教育大学、中等社会科教育学会は筑波大学、鳴門社会科教育学会は鳴門教育大学の学会です。私が所属する東京学芸大学も『学藝社会』を発行しています。だいたいどの大学も、授業実践記録や授業開発、教材開発が多く掲載されています。その分、社会科の本質とは何かといった議論や、外国での研究動向などは、あまり掲載されない傾向にあります。
授業づくりの参考になるような具体的なアイデアは、こうしたレベルの学会誌に豊富にあります。また、その大学に所属する院生の研究が多く掲載される傾向にあります。
 なお、『学藝社会』では最近リサーチ(調査研究)にも最近力を入れており、他の学会誌との差別化を図ろうとしています。


◎学会誌(一般教育学関係)
◆『日本教科教育学会誌』(日本教科教育学会)、『教育方法学研究』(日本教育方法学会)、『カリキュラム研究』(日本カリキュラム学会)など
 これらは、社会科以外の教科や、場合によっては広く教育活動(研究)全般を扱う学会誌です。このうち、『日本教科教育学会誌』は、教科の枠組みや教科の固有性に拘りを持つ学会です。ただ授業実践の論文は少なく、リサーチ(調査研究)が多く掲載される傾向にあります。
『教育方法学研究』や『カリキュラム研究』は、教科横断的なテーマ、または脱教科的テーマの論文が多く掲載されていますが(特に『カリキュラム研究』)、教科教育系の論文が掲載されることもあります。外国研究や教師教育研究に強い傾向がみられるように思います。

◆『教育学研究ジャーナル』『教育学研究紀要』(中国四国教育学会)など
 地区別の教育学会というのも存在しており、九州教育学会、中国四国教育学会、関東教育学会などがあります。


◎学会誌(教科専門系)

◆『新地理』(日本地理教育学会)、『歴史学研究』(歴史学研究会)、『法と教育』(法と教育学会)など
 これらは、地理学、歴史学、法学といった教科内容系の専門家たちが、「教育」について語るところに特徴があります。主に歴史学者が歴史教育の、地理学者が地理教育の、そして法学者が法教育の在り方を論じます。また、必ずしも教育系論文ばかりが掲載されるわけではなく、普通に教育とは無関係の地理学的、歴史学的、法律学的研究論文が掲載されることもあります(ただ学会によって、教育系論文と専門研究論文の掲載割合は異なります。『新地理』は5:5くらい、『歴史学研究』は普段は専門研究が主、『法と教育』は9割くらいまで教育系論文です)。
 社会科は、各種学問領域を何らかの目的の下で「統合」しようとする傾向にあるのに対して、これらの学会は、各学問領域にはそれ独自の教育目標があるとしたスタンスをとることが多く、「分化」的傾向が見られます。各学問の規範性(ディスシプリン)を重視する傾向にあるところに特徴があります。


◎大学等研究紀要
『東京学芸大学紀要』、『広島大学大学院教育学研究紀要』など
 各大学が出版している紀要。頁制限がないケースも多く、自由にものを書くことができるので大胆な論文があったり、詳細な研究過程を見ることができるような論文があったりします。しかし、原則として紀要には査読がないので、信憑性に欠けていたり、調査が甘かったりすることもあります。


◎民間研究会の雑誌
『考える子ども』(社会科の初志を貫く会)、『歴史地理教育』(歴史教育者協議会)、『教育』(教育科学研究会)など
 民間の教育研究会も、社会科や地理歴史科などの話題を取り上げることが多くあります。『考える子ども』は、問題解決学習や子どもの見とりに拘り、様々な実践記録や子どもの観察記録を多く掲載しております。『歴史地理教育』は、実践記録よりは、教材研究を多く掲載している印象があります。歴史教育や地理教育の在り方を根源的に問い直す特集がときどき組まれ、読み応えがあります。『教育』は逆に、教科教育実践の話題は少なく、教育の原理的な話が多く掲載されてきている印象があります。
 でも私の印象なので、実際に雑誌を目にして確かめて頂ければと思います。


◎商業雑誌
『社会科教育』(明治図書)
 現場の教師の様々な実験的な試みや日頃考えていることが掲載されている雑誌です。大学の先生が自分の考えを思い思いに論じていたりもしています。明日の実践のヒントが多く載っています。

『思想』(岩波書店)、『現代思想』(青土社)
 基本的には教育雑誌ではありませんが、時々教育関係の特集が組まれたりします。明日の授業に役立つネタを提供することはまずありませんが、教育のありかたを原点から問い直すことができるような話が載っています。



  

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