はじめに

 この度、教師をめざす高校生や大学生(大学院生)、教師、または社会科や教育学に関心を持つあらゆる方々に、「社会科って何?」「授業って何?」「教育学って何?」ってことを知ってもらう(考えてもらう)ために、そして教育学の研究者や教育関係の仕事をしている行政(文部科学省の官僚や教科調査官、地方行政団体の教育委員会関係者、指導主事の方々などに「本当にあなたの社会科についての理解はそれで良いのですか?」「本当にその政策は教師や子ども、そして日本国民を幸せにするのですか?」ということを考えていただくために、東京学芸大学教育学部の渡部竜也は、自分の研究成果を公開することにいたしました。

◆研究者の皆様

 これまで様々な論文や原稿を書いてまいりましたが、そのテーマが多岐にわたっており、一度体系的に整理したいと考えてまいりました。
 「研究の実績」の◆1〜◆9は、私の研究の進展を、ほぼ時系列に整理した形になっております。◆10以降は、その他の研究といった位置づけになります。ただし、◆1から順番に研究が完成しているわけではなく、◆1のように一定の成果をまとめるに至った研究もあれば、◆2のように進展がとどまっている研究もあります。
 このように体系的に整理した大きな理由としては、2つの理由があります。第1の理由は、いわゆる学会誌だけでなく、大学紀要やその他様々な雑誌や著書、報告書にも、各研究テーマに関する重要な原稿を書いており、こちらにも注目をしていただきたいといった希望からです。
 例えば、私は本学の同僚とともに、教師を対象としたリサーチなどをかなり真剣に行っております。また米国での子どもや教師の実態に関する調査研究をさまざまな形で読み込んでおります。そしてこうした研究の成果から明らかになってきたことを踏まえて、自らの研究を見直したり、見解を主張したり、これからの社会科教育学研究の方向性を論じたりしております。しかし時に私が社会科学第一主義の社会科教育論に否定的な姿勢をとることもあり、研究者の一部に、渡部=アンチ科学=主観主義者(※1)、渡部=アンチ論理実証主義=実証データ軽視…という強引な構造で私の研究や思想を理解しようとする動きがあるように感じます。これは妥当な評価ではないと感じ、今回、反論も兼ねてこのようなHPを立ち上げました。
 第2の理由は、私の原稿には、社会科教育学関係者だけでなく、一般教育学とも大きな関係を持つ著者や論文を幾つも生産しており、もう少しこうした研究についても広く見てほしいと考えていることがあります
 例えば、私自身が常に「『社会科』教育学者」と位置づけられている(このことに不満はありません)からなのか、投稿している雑誌のほとんどが「社会科」の関係雑誌であるからなのか、一般教育学の関係者は、私の研究を「自分たちとは無関係」と誤解しているのではないかと感じております。しかし私の授業研究や教師教育論などの論考のいくつかは、一般教育学のそれに対抗することを意図したものでありますし、一般教育学の動きをけん制することをねらいとしたものも少なくありません(※2)。
 教育学系の学会には「蛸壺」化、つまり、特定学閥による支配や研究分野のセクショナリズムが進行しているところが少なからずあるように思われます。こうした事態が、教育学や現場の教育の実態にプラスに働くことは、おそらくないでしょう。今回のHPで自らの研究を整理することで、例えば社会科教育学とその他教育学との垣根を超えることに繋がることを期待してやみません。
 なお、私の社会科観や学校教育観についてもまとめております。合衆国の教育から学んだ私の考え方です。おそらく、従来の教科教育観や社会科教育観とは異なることが多いのではないかと思います。こちらもご参照くださり、ご意見を頂けると幸いです。

※1 例えば児玉康弘による私と池野の教育論批判(『社会科研究』参照)では、私たちの立場をポパーのいう「世界2」の中で議論し「世界3」を否定している者たちであると(事実上、我々は「急進的構成主義者」だと)位置づけていますが、これは論者の我々(少なくとも私の立場)への誤解、または構成主義への認識不足と考えております。私は「世界3」の存在を認めております。「世界3」が存在しないと、人々は「対話」の土台を作り上げることができないからです。
※2 例えば私は鳴門教育大学や上越教育大学の「教科内容学」構想を批判しております。しかしこれを推進する方々から、私の批判が取り上げられて検討された様子はありません。「反論があることをご存じないのではないか」というのが、私の印象です。批判してもそれが相手に伝わらないのであれば、それは真の批判ではないと感じています。
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◆現役の教師・教師を希望する学生の皆様


 この度、HPを作成したのには、一つは現場で日々思い悩んでいらっしゃる社会科教師の皆様や、大学時代に社会科教師になるために何を学べば良いのかなと悩んでいる学生の皆様に、少しでもお役に立てる情報を提供したいといった私個人の気持ちがあります。
 私の研究は、その全てが現場教師や学生向きとは言えませんし、またHOW・TO・SOCIAL・STUDIESの類の研究はあまり多くありません。それでも、自分としては、日々多くの方々にとって読みやすい文章を書くように心がけているつもりです。また大学用教科書に記載した原稿、学習指導要領について解説した原稿、『社会科教育』(明治図書)やその他の依頼を受けて書いた原稿などは、特に高度な専門用語(カタカナを含む)を極力抑えて書くようにしております。
 「研究の実績」◆3の一部、◆4、◆6、◆7の一部や◆10〜◆15や、「その他」がおススメです。
 また教育委員会関係の方には、◆7〜◆9をぜひ一読されていただけると幸いです。
今後、こちらの現場目線の研究にも、重点を置く所存です。ご期待ください。
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◆高校生の皆様

 これから教師になろうかな、社会科の教師になろうかな、教育学部が良いのかな、教育学ってどんな研究をするんだろうか、東京学芸大学の先生の活動を知りたい・・・そんな方にも本HPは多少参考になるのではないかと思います。
 まず社会科とか学校教育について知ってもらいたいので、「社会科に対する考え方」の「学校教育の役割とは」「教科教育とは」「社会科教育とは」の三部を見てもらえればと思います。社会科の実態とか学校教育の実態というよりは、原理的な話ですが、こうしたことを聞くことができるのが、本学の良さです。本学は、テクニシャン(権威者の言うことを効率よく有効にこなしていくプロフェッショナル)としての教師を養成するのではなく、知識人(状況を踏まえて他者の見解に耳を傾けつつも何をすべきか自分で考え判断のできるプロフェッショナル)としての教師を養成することを目指しています。
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